
「隣の畑を無償で譲りたいと言われました。どのような手続きが必要でしょうか?」
農業を営むAさんから、このようなご相談をいただきました。
対象は、自宅近くにある数百平方メートルの畑です。土地所有者のBさんから贈与の申し出があり、手続きの進め方についてご相談に来られました。
土地をあげる方ともらう方が合意していても、農地の場合は、それだけで所有権移転の手続きが完了するわけではありません。農地として使い続ける目的で贈与を受ける場合には、原則として農地法第3条の許可が必要です。
今回は、取得後の利用方法が決まっていなかった相談から、耕作計画の確認、事前協議、許可申請までの流れをご紹介します。
※個人情報保護のため、氏名・所在地・面積などは匿名化・概括しています。本件は執筆時点で申請済みであり、許可前の事例です。
1.最初に確認したのは「取得後に何を育てるか」
詳しくお話を伺うと、Aさんはすでに農地を所有していましたが、新しく譲り受ける畑の利用方法は具体的に決まっていませんでした。当初は、草刈り程度の管理を考えていたようです。
ここが、今回の相談で最初に整理すべき点でした。
農地法第3条の許可では、取得後に農地を適切に耕作できるかが確認されます。現在農業を営んでいることと、新たに取得する畑を継続して耕作できることは、分けて考える必要があります。
奥州市の案内でも、既存の農地を含めて効率的に耕作すること、必要な農作業に従事すること、周辺農地の利用に支障を生じさせないことなどが判断基準として示されています。
そのため、耕作する意思がないまま、申請書だけに作付予定を記載して進めることはできません。
まずはご本人の意向を確かめ、実際に続けられる利用方法があるかを確認しました。
2.登記・公図・現地を確認し、無理のない耕作計画へ
土地の調査では、登記情報と公図を確認し、所在地番・地目・面積・登記名義人を整理しました。
登記上、抵当権等は見当たりませんでしたが、登記だけでは分からない貸借関係や現在の利用状況についても確認が必要です。
現地では、耕起された畑の様子を確認できました。ただし、見た目が整っているだけで、取得後の耕作が可能と判断できるわけではありません。
そこで、Aさんの農作業経験や使用できる機械、既存農地の管理方法などを伺いながら、今回の畑でどのような作物を育てるかを整理しました。
その結果、Aさんから枝豆を作付けする意向を確認できたため、これを申請書の作付予定に反映しました。
大切なのは、許可のために形式的な計画を作ることではありません。ご本人が納得し、取得後に実行できる計画を確認することです。
3.贈与契約書は、農地法の許可と整合する内容に
申請準備と並行して、当事者間で取り交わす贈与契約書案も作成しました。
農地の贈与では、契約締結日と所有権移転の時期を整理しておく必要があります。今回の契約書案では、農地法第3条の許可が効力を生じた時に所有権が移転する構成とし、次の事項を盛り込みました。
- 贈与する土地と、無償であること
- 所有権が移転する時期
- 許可申請への双方の協力
- 土地の引渡し時期
- 申請・登記等の費用負担
- 許可が得られなかった場合の取扱い
注意したいのは、契約全体を「許可後に初めて効力が生じる」としてしまうと、許可前に必要な申請協力や費用負担の扱いが分かりにくくなることです。
そこで、所有権移転の効力と、契約締結時から必要となる協力義務等を分けて整理しました。
また、不許可の場合でも、それまでに発生した費用や、当事者の義務違反による責任をどう扱うかは別の問題です。「白紙撤回」の一言で済ませず、当事者間で確認しておくことが大切です。
4.農業委員会との事前協議で、記載方法を確認
申請書類を整えた後、農業委員会事務局で事前協議を行いました。
書式の見出しだけでは判断しにくい箇所もあるため、今回の事情を説明しながら記載方法を確認しました。
管理機・草刈り機も農機具欄へ
当初はトラクターを記載していましたが、事前協議では、管理機や草刈り機についても記載するよう案内がありました。
実際の耕作・管理に使用する機械を示すことで、作業体制が伝わりやすくなります。所有・借用等の状況や台数も確認し、申請書に反映しました。
労働力欄は、今回の記載指示に合わせて整理
農作業に従事する人数の記載についても確認しました。
今回は、事務局の指示に従って本人分を含める形で記載しています。これは今回の申請で確認した取扱いであり、ほかの自治体や別の申請にも一律に当てはまるという意味ではありません。
疑問のある欄は、推測で埋めずに窓口へ確認することが、手戻りを減らすことにつながります。
農家台帳と申請書の数値を照合
既存農地の利用状況は、農家台帳の情報と照合しました。さらに、取得前の面積と、今回の畑を加えた取得後の面積が整合するかも確認しました。
台帳との一致だけでなく、現在の利用実態に相違がないかを確認することも大切です。
5.申請書を提出。現在は審議を待っています
事前協議で確認した内容を反映し、農地法第3条の許可申請書を提出しました。今後、農業委員会総会で審議される予定です。
申請の受付と、許可の決定は別です。 現時点では許可前のため、引き続き補正や追加確認等の連絡に対応していきます。
許可後は、司法書士と連携して贈与による所有権移転登記を進める予定です。許可指令書、贈与契約書、登記識別情報など、必要な書類を整理して引き継ぎます。
6.「無料でもらえる」場合も、取得後の負担まで確認を
土地代がかからない贈与でも、申請や登記の費用、税金、取得後の管理負担までなくなるわけではありません。
譲り受ける前に、次の点を整理しておくと安心です。
- 継続して耕作する意思と作業体制があるか
- 土地の範囲や現在の利用関係に問題がないか
- 申請・契約・登記の費用を誰が負担するか
- 贈与に伴う税金について確認が必要か
なお、農地取得の下限面積要件は令和5年4月に廃止されましたが、耕作等に関するほかの許可要件は残っています。小さな畑でも、手続きの確認は必要です。
農地を譲る・譲り受けるお話が出たら、ご相談ください
今回の相談では、土地の情報を調べることに加え、Aさんが取得後にどのように畑を使うかを確認することが、申請準備の出発点となりました。
「畑を譲ってもらえるけれど、何から始めればよいか分からない」
「農地を家族や知人に贈与したい」
「自分で管理できるか迷っている」
そのような場合は、契約や名義変更を進める前に、現在の状況とご希望を整理してみませんか。
行政書士伊藤公好事務所では、奥州市を中心に、農地の売買・贈与・貸借に伴う農地法の許可申請をご支援しています。 登記については司法書士、税務については税理士等と役割を分け、必要な手続きにつなぎます。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づきます。必要な手続きや書類は、土地の状況・利用目的・契約内容によって異なります。
行政書士伊藤公好事務所
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この記事を書いた人 Wrote this article
伊藤 公好
行政書士の伊藤公好(いとう きみよし)と申します。 奥州市で行政書士事務所を開設しました。 建設業許可申請、補助金申請、会社設立、各種許認可、相続・遺言などでお困りの方は気軽にご相談ください。