
「自分には子どもがいないので、亡くなった後の財産がどうなるのか心配」
「日頃から世話をしてくれている親族に財産を遺したい」
「自筆証書遺言を書きたいが、書き方を間違えて無効にならないか不安」
このようなお悩みはありませんか。
今回は、Aさんからご相談いただいた、自筆証書遺言作成の実例をご紹介します。
※個人情報保護のため、お名前などは仮名とし、事例の本質に影響しない範囲で内容を一部変更しています。
- 1. Aさんが自筆証書遺言を考えた理由
- 2. 遺言書がなければ、お世話になった人に財産が渡るとは限りません
- 3. Aさんの自筆証書遺言に盛り込んだ内容
- 4. 自筆証書遺言書保管制度を利用する方針に
- 5. 自筆証書遺言は、どこまで手書きする必要がある?
- 6. 遺言書の押印は実印でなければならない?
- 7. 氏名に旧字体・外字がある場合も注意が必要です
- 8. 遺言書だけでは、亡くなった後の全てを任せられません
- 9. Bさんが貸家の賃貸人だったため、契約内容を慎重に確認
- 10. 自筆証書遺言作成は「書く前の整理」が重要です
- 11. 自筆証書遺言に関するよくある質問
- 12. まとめ|「誰に託したいか」を元気なうちに形にしましょう
- 13. 奥州市で自筆証書遺言の作成をお考えの方へ
Aさんが自筆証書遺言を考えた理由
Aさん(女性)は、これまで婚姻歴はなく、お子さんもいません。現在は貸家で一人暮らしをしています。
Aさんには、日頃から生活面を支えてくれている従妹のBさんがいました。Bさんは、買い物や各種手続など、Aさんが一人では難しいことを親身になって手伝ってきました。
Aさんの主な財産は、次のようなものでした。
- ゆうちょ銀行の貯金
- テレビやエアコンなどの家財
- 日常生活に必要な現金やその他の財産
Aさんの希望は、はっきりしていました。
自分が亡くなった後の財産は、生活を支えてくれたBさんに受け取ってもらいたい。
しかし、従妹であるBさんは、原則としてAさんの法定相続人にはなりません。
そのため、Aさんの希望を実現するには、元気なうちに有効な遺言書を作成しておく必要がありました。
遺言書がなければ、お世話になった人に財産が渡るとは限りません
「身近にいる人だから、当然その人が財産を受け取れるだろう」と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、相続では、民法で定められた法定相続人が財産を引き継ぐのが原則です。
日常生活を支えてくれた人や、特に親しい親族であっても、その人が法定相続人でなければ、当然に財産を相続できるわけではありません。
特に、次のような方は早めに遺言書を検討することが大切です。
- 子どもがいない方
- 配偶者がいない方
- 兄弟姉妹や甥・姪と疎遠になっている方
- 内縁の配偶者に財産を遺したい方
- お世話になった親族や知人に財産を渡したい方
- 特定の団体へ寄付したい方
- 相続人同士の争いを予防したい方
遺言書は、財産の多い方だけに必要なものではありません。
「誰に何を託したいか」という希望がある方にとって、遺言書は重要な備えになります。
Aさんの自筆証書遺言に盛り込んだ内容
Aさんとの面談では、財産の内容だけでなく、Bさんとの関係や、亡くなった後にどのような手続が必要になるかまで丁寧に確認しました。
その結果、遺言書には、主に次の内容を盛り込むことになりました。
1.ゆうちょ銀行の貯金をBさんへ遺贈する
Aさん名義のゆうちょ銀行の貯金を、Bさんへ遺贈する内容です。
法定相続人ではない方へ財産を渡す場合には、一般的に「相続させる」ではなく「遺贈する」という表現を使用します。
金融機関や口座を特定できるように記載することも重要です。
2.テレビやエアコンなどの家財をBさんへ遺贈する
預貯金だけでなく、Aさんが所有するテレビ、エアコン、家具その他の家財についても、Bさんへ遺贈することにしました。
ただし、貸家に備え付けられた設備や第三者から借りている物まで遺贈の対象に含めてしまわないよう、次のような点を整理しました。
- Aさん自身が購入した物か
- 貸主の所有物ではないか
- レンタル品や貸与品ではないか
- 処分してよい物か
家財について遺言書に記載する場合は、誰の所有物なのかを確認することも大切です。
3.記載されていない残余財産もBさんへ遺贈する
遺言書を作成した後に預金残高が変わったり、新しい財産が増えたりすることがあります。
そこで、個別に記載した財産以外についても、
遺言者が死亡時に所有するその他一切の財産をBさんに遺贈する
という「残余財産」に関する条項を設けました。
この条項がないと、遺言書に書かれていない財産について、別途、相続手続が必要になる可能性があります。
4.Bさんを遺言執行者に指定する
遺言書は、作成しただけで全ての手続が自動的に進むわけではありません。
Aさんが亡くなった後には、金融機関への照会、残高証明書の取得、貯金の解約・払戻し、家財の引取りなどが必要になります。
そこで、Aさんの了解を得たうえで、Bさんを遺言執行者に指定することにしました。
遺言執行者を決めておくことで、遺言内容を実現するための手続を進めやすくなります。
自筆証書遺言書保管制度を利用する方針に
Aさんは、自分で遺言書を書く「自筆証書遺言」を希望しました。
自筆証書遺言には、費用を抑えて作成できるというメリットがある一方、次のような心配もあります。
- 遺言書を紛失する
- 遺言書の存在を誰にも気づいてもらえない
- 誰かに破棄、隠匿、改ざんされる
- 形式上の不備によって無効になる
- 家庭裁判所の検認手続が必要になる
そこでAさんには、「自筆証書遺言書保管制度」の利用をご案内しました。
この制度は、自分で作成した遺言書を法務局で保管してもらう制度です。
法務局で保管された遺言書は、紛失や改ざんなどのリスクを抑えられます。また、法務局に保管された自筆証書遺言については、遺言者が亡くなった後の家庭裁判所による検認が不要です。
制度の詳細は、法務省の自筆証書遺言書保管制度の案内で確認できます。
自筆証書遺言は、どこまで手書きする必要がある?
現在の自筆証書遺言では、原則として、次の部分を遺言者本人が自書します。
- 遺言書の本文
- 作成した年月日
- 氏名
そして、遺言書には押印が必要です。
財産目録については、パソコンで作成したものや、通帳・登記事項証明書の写しなどを使用することもできます。ただし、自書ではない財産目録を添付する場合は、各ページに署名・押印が必要です。
詳しい様式上の注意点は、法務省「遺言書の様式等についての注意事項」に掲載されています。
なお、法務局の保管制度を利用する場合も、法務局が遺言内容の法的な有効性まで保証してくれるわけではありません。
「誰に、どの財産を、どのように渡すのか」は、作成前に専門家へ相談することをおすすめします。
遺言書の押印は実印でなければならない?
Aさんの遺言書作成を進める中で、「実印を登録していない」ことが分かりました。
自筆証書遺言の押印は、必ずしも市区町村に登録した実印でなければならないわけではありません。一般的には認印でも作成できます。
ただし、使用する印鑑や本人確認の方法は、遺言書だけでなく、同時に作成する契約書の内容や将来の手続も踏まえて検討する必要があります。
今回も、遺言書と死後事務委任契約書をそれぞれ分けて確認し、必要な修正を行いました。
氏名に旧字体・外字がある場合も注意が必要です
Aさんの氏名には、一般的なパソコン入力では正確に表示しにくい旧字体が含まれていました。
氏名の漢字が戸籍上の表記と異なると、法務局や金融機関での手続の際に確認を求められる場合があります。
そこで、次の書類を照らし合わせながら、正確な表記を確認しました。
- 戸籍
- 本人確認書類
- 金融機関の届出氏名
遺言書では、「普段使っている漢字だから大丈夫」と判断せず、公的書類上の氏名を確認することが大切です。
遺言書だけでは、亡くなった後の全てを任せられません
Aさんのご相談では、遺言書に加えて「死後事務委任契約書」の作成も検討しました。
遺言書は、主に財産の承継について定めるものです。
一方、亡くなった後には、次のような財産承継以外の手続も発生します。
- 死亡届などの行政手続
- 葬儀、火葬、納骨
- 医療費や施設利用料などの精算
- 電気、ガス、水道、電話などの解約
- 健康保険や年金関係の手続
- 郵便物や重要書類の整理
- SNSやデジタルサービスの対応
- 家財や残置物の整理
- 賃貸住宅の明渡しに関する対応
これらの事務を信頼できる人へ依頼する契約が、死後事務委任契約です。
遺言書と死後事務委任契約は役割が異なるため、両方を準備することで、亡くなった後の不安をより幅広く減らすことができます。
Bさんが貸家の賃貸人だったため、契約内容を慎重に確認
今回の事例には、もう一つ重要な事情がありました。
Aさんが住んでいる貸家の賃貸人が、死後事務の受任者となるBさんだったのです。
Bさんが賃貸人であると同時に、受遺者、遺言執行者、死後事務の受任者を兼ねると、次のような場面で利害が対立する可能性があります。
- 賃貸借契約の終了
- 貸家の明渡し
- 敷金や未払賃料の精算
- 原状回復費用の負担
- 残置物の処分
- 家財がAさんの所有物か、貸主の所有物かという判断
そこで、Bさんが一方的に判断したように見えないよう、死後事務委任契約書の内容を精査しました。
特に、賃貸借契約の解除、敷金の精算、明渡し、残置物処理などについては、Bさんの権限や処理方法を明確にし、遺言執行に関する事務と死後事務に関する会計を区分して記録する内容としました。
信頼関係があるからこそ、後日の誤解を防ぐために契約内容を明確にしておくことが重要です。
自筆証書遺言作成は「書く前の整理」が重要です
自筆証書遺言というと、「自分で紙に書けば完成する」と思われがちです。
しかし、実際には、書き始める前に次の事項を整理する必要があります。
- 誰が法定相続人になるのか
- どのような財産があるのか
- 誰に、どの財産を渡したいのか
- 遺留分への配慮が必要か
- 遺言執行者を誰にするのか
- 遺言書に書かれていない残余財産をどうするのか
- 受遺者が先に亡くなった場合をどうするのか
- 法務局の保管制度を利用するのか
- 葬儀や納骨などの死後事務を誰に頼むのか
- 賃貸住宅や家財の処理をどうするのか
Aさんの場合も、一度原案を作成して終わりではありませんでした。
面談後に原案を作成し、AさんとBさんに内容を確認していただいたうえで、氏名の旧字体や実印登録の有無、貸家に関する権限などを再確認し、修正を重ねました。
遺言書は、ひな形に名前を入れるだけで完成するものではありません。ご本人の家族関係、財産、生活状況、希望に合わせた内容にすることが大切です。
自筆証書遺言に関するよくある質問
Q.財産が預金だけでも遺言書は必要ですか?
預金だけであっても、渡したい相手が法定相続人ではない場合や、特定の人に多く渡したい場合には、遺言書を作成する意味があります。
Q.子どもがいない場合、誰が相続人になりますか?
配偶者の有無、両親や祖父母が存命か、兄弟姉妹や甥・姪がいるかによって異なります。戸籍を確認して法定相続人を調査する必要があります。
Q.従妹や友人に財産を遺せますか?
有効な遺言書で遺贈する旨を定めることで、法定相続人ではない従妹や友人へ財産を渡すことができます。
Q.自筆証書遺言は実印で押印する必要がありますか?
必ずしも実印である必要はありません。ただし、本人が作成したことをめぐる争いを防ぐため、印鑑の選択や保管方法を含めて慎重に準備することをおすすめします。
Q.法務局へは行政書士が代理で行けますか?
遺言書の保管申請は、遺言者本人が法務局へ出頭して行う必要があります。代理人による申請や郵送による申請はできません。
行政書士は、事前の相談、必要書類の確認、遺言書原案の作成支援などを行うことができます。
Q.法務局で保管すれば、内容も有効になりますか?
法務局では、遺言書が所定の様式に適合しているかを外形的に確認しますが、遺言内容の法的な有効性まで審査・保証するものではありません。
そのため、保管申請の前に専門家へ相談し、内容を確認することが重要です。
まとめ|「誰に託したいか」を元気なうちに形にしましょう
今回のAさんの事例では、生活を支えてくれた従妹のBさんへ財産を遺すため、自筆証書遺言を作成し、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する準備を進めました。
さらに、遺言書だけでは対応できない葬儀、納骨、契約解約、貸家の明渡しなどに備えるため、死後事務委任契約についても検討しました。
特に、子どものいない方や、法定相続人以外の方へ財産を遺したい方は、遺言書がないままでは、ご自身の希望が実現しない可能性があります。
大切なのは、「まだ元気だから」と先延ばしにせず、ご自身で判断し、文字を書くことができるうちに準備を始めることです。
奥州市で自筆証書遺言の作成をお考えの方へ
行政書士伊藤公好事務所では、岩手県奥州市を中心に、自筆証書遺言の作成支援、法務局の遺言書保管制度を利用するための準備、死後事務委任契約書の作成などを承っています。
「誰に財産を遺せばよいか決められない」
「自分で書いた遺言書が有効か確認してほしい」
「子どもがいないので、亡くなった後が心配」
「お世話になった親族や知人へ財産を遺したい」
このようなお悩みがありましたら、お一人で抱え込まず、お早めにご相談ください。
ご本人のお気持ちを丁寧にお聞きし、家族関係や財産、今後の生活に合った遺言書作成をサポートいたします。
行政書士伊藤公好事務所
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※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の事情によって必要な手続や適切な遺言内容は異なります。相続人間に紛争がある場合や紛争が予想される場合は、弁護士へご相談ください。
この記事を書いた人 Wrote this article
伊藤 公好
行政書士の伊藤公好(いとう きみよし)と申します。 奥州市で行政書士事務所を開設しました。 建設業許可申請、補助金申請、会社設立、各種許認可、相続・遺言などでお困りの方は気軽にご相談ください。